フライマテリアルのこだわり

僕はフライのマテリアルに対するこだわりが殆どありません。
「殆ど」と言ったのは、劣悪で使いづらいマテリアルは決して使わないという意味を含んでいます。
ハックル素材などは良い素材であればサクッとキレイに巻けますし、獣毛も良いものは折れづらく無駄がありません。
「こだわりがない」というのは、代用できるものなら既成概念にとらわれずに何でも使うということです。

一時期「CDCダン」というフライが大ブレークしました。
メイフライ(カゲロウ)ダン(亜成虫)の羽の部分にCDC(※)を使用しているパターンです。
※カモのお尻の方にある油分を良く含んだ浮力の高い羽根です。
この部分に僕はエアロドライウィングという科学素材を使っていました。
巻きやすいし、釣りの最中も扱いやすいし、釣れ具合も遜色無いように感じていました。
CDCは品質に当たりはずれがあり、良いものはけっこう高価だったということもあります。

釣り仲間のTH氏のフライボックスは素晴らしく綺麗に巻かれたCDCダンでいっぱいでした。
「エアロドライウィングでも同じぐらい釣れない?」という僕の言葉に対して、「自分が許せるかどうかです」という言葉が返ってきました。
フライフィッシング自体が言わばこだわりの釣りですから、フライマテリアルへのこだわりは当然生まれてくるでしょう。
彼は佐藤成史さんと親しくしているくらいですから、「良い獲物を狙うのならそれに相応しいフライで」という心意気があるのでしょう。
僕はフライのタイイングについては「パフォーマンス至上主義」なので、杉坂研治氏が使うような「珍素材」も躊躇なく使います。
浮きやすく、水キレが良く、空気抵抗が少なく、自分からも魚からよく見えるフライが僕にとっての「ベストなフライ」です。

ただし、「良く浮く」とはいっても「浮き方」によって釣れ具合が違うと考えています。
浮き方には「水面に立ったような浮き方」「水面にペタッと張り付いたような浮き方」「氷山のような浮き方」などがあります。
「水面に立ったような浮き方」は主にスタンダードフライで、ハックルもテールも厚めのものの浮き方です。
「水面にペタッと張り付いたような浮き方」はエルクヘアカディス、パラシュート、アントなどが代表的なパターンです。
発泡素材などを浮力材に使うと「氷山のような浮き方」をします。
渓流においては「水面にペタッと張り付いたような浮き方」が一番効果的だと思います。
それは「ライトパターン」が大きく影響しているからです。
「ライトパターン」についてまたの機会で語ります。
取扱の良さとしては珍素材を多用した研ちゃん式フライは「浮きやすく、水キレが良く、空気抵抗が少なく」の面で最高なのですが、「ライトパターン」という面においては少し劣ります。

フッキングの良し悪しも形状によって違いが出てきます。
スタンダードフライなどは魚にとって吸い込みづらい形状です。
スプリングクリークなどの釣り場で大物の魚を釣るのには良いかもしれませんが、渓流でロングリーダーティペットで釣るなら論外です。
フローティングニンフやアントなどの「半沈みパターン」は最も魚にとって捕食しやすく、研ちゃん式もそれに準ずるように思います。
エルクヘアカディスやパラシュートパターンは標準的ですが、テールをあまり長くすると弾かれます。

フライフィッシングは「尖っている釣り」代表格と言われます。
それゆえのこだわりがそれぞれの釣り人にに有りますが、こだわりの中にも寛容性も必要だと思います。
自分のスタイルに固執するあまり「排他的」な考えになるのは困ったものです。
渓流では餌師もテンカラ師もルアーマンも、そしてフライマンも同じフィールドで釣りをします。
共通するルールはきちんと守って、それぞれのスタイルで楽しんでもらいたいと強く願っています。
お互いを尊重しあえば釣り場での「不毛な衝突」も無くなります。